指導語録NO.214「サービス精神と自主性を持ちなさい」の項だ.
総経理秘書は,毎朝当日の作業員の勤怠状況を決められたフォーマットで報告している.病欠,休暇,生産調整によるレイオフなどで,出勤人数が毎日変わるのを報告するわけだ.
しかし経営者にとって知る必要があるは,「何人出勤しているか」よりも「どんな理由で出勤していない人間がいるか」ということだろう.
原田師は,必要があるたびに欠勤理由を秘書に尋ねていたが,3回目に同じ事を聞く必要が出来た時に「サービス精神と自主性を持ちなさい」という指導をしている.
質問をされた時に,相手がどんな情報を必要としているのか分かるはずだ.サービス精神を持って,相手が必要な情報を自主的に伝えよ,という指導をしたわけだ.
気の短い上司ならば,自分に必要な情報を報告フォーマットに入れ込んで,次回からこれで報告するように指示をするだろう.しかし原田師は,部下の自主性を養うために2回まではじっと我慢したのだろう.
中国で仕事をしていると,単機能人材を上司がうまく仕事を割り振って成果を出してゆかねばならないことがままある.
例えば,昨日の生産実績を知るために,生産管理に報告をさせる.
生産実績が計画を下回っていたので,なぜか質問する.生産管理の職員は当然のように「不知道(知らない)」と答える.
そこで現場の班長のところに行き,なぜ生産計画を下回ったか尋ねる.部品の欠品のため生産が出来なかったことを知る.では部品はいつ来るのか質問をする.班長は当然のように「不知道」と答える.
更に購買担当のところに行き,部品がいつ手に入るか聞く.ここでも購買担当は当然のように「不知道」と答える.ここでちょっとムッと来て,すぐに部品業者に問い合わせさせる.不足部品の納期は分かったが,いつ生産できいるか分からない.質問したいのをこらえ,再び生産管理へ行く.
生産管理は即座に生産計画を修正してくれる.しかしそれで顧客の要求に間に合うのかどうかは,「不知道」である.
更に営業部門に行き,漸く初期の目的を達成することが出来る.
この様な状況を克服するために,問題があれば即座に関係者を全員招集して会議を開く.毎回こんなことをしていなければならない.
ある経営者(台湾人)はこういう状況を打破するために,顧客ごとに「プロジェクトリーダ」をおき,関連部署の調整をさせようとした.しかしこれもまた,単機能の職位をひとつ追加するだけである.
こういう考え方の背後には,中国には単機能人材しかいないという諦めがあるからであろう.
職員が全員顧客の方を向いて,各部署がお互いにサービス精神を持ち自主性を発揮できれば,自律的に仕事が進むはずである.
それが出来ないのは,中国人のレベルはこんなものという諦観と,教育育成の放棄が原因だ.
きちんと指導すれば出来るはずだ.指導努力をしなければ,上位職員の苦労は永久に解決できない.
できないと思えば永久にできない.出来るようになると信じて努力をすれば,できるようになる.

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