第七回原田式経営哲学勉強会
テーマ:原田則夫氏追悼パネルディスカッション
パネラー:富田社長,林
フリージャーナリスト・田原氏
明治大学・はお教授
蛍日(上海)国際貿易・西塚氏
鄭泰汽車輪股分有限公司・鄭社長
同上・郭副総経理
同上・羅部長
日時:12月18日 14:00から17:00
会場:東莞南城区新城市酒店 15階会議室
パネラー:富田社長,林
フリージャーナリスト・田原氏
明治大学・はお教授
蛍日(上海)国際貿易・西塚氏
鄭泰汽車輪股分有限公司・鄭社長
同上・郭副総経理
同上・羅部長
日時:12月18日 14:00から17:00
会場:東莞南城区新城市酒店 15階会議室
■田原氏
田原真司氏:フリージャーナリスト.日経ビジネス誌の香港特派員だった頃,ソニー恵州の原田氏と出会う.2001年5月21日号の日経ビジネス誌で,経営戦略特集記事に「船井も脱帽,生産性3倍増の型破り工場」として原田氏が経営していたソニー恵州を紹介
- 原田氏を取材しようとした動機
原田氏の経営の独自性,特異さを日本の企業に伝えたいと思った.それにより日系企業の中国進出の好例となればと考えた.
また,原田氏の工場がすべてOPENであり,学ぶ姿勢を持ったものを快く受け入れた.当時すごい速度で進化していた,中国か何のものづくりの定点観測点として貴重であった. - 原田式経営が実現した背景
- 時代的背景
原田氏を取材した2000年春からの約一年間,日本はまだアジア経済危機の影響を引きずっていた.
中国における高度エレクトロニクス製品,自動車の生産は,その裾野産業の成熟が不十分であり,時期尚早と考えられていた.
しかし香港から華南を見ると,当事日本国内の論調はずれており,更に先端を行っている工場があると考えていた.中国独自の労働環境を利用し,農民工のポテンシャルを引き出せば,日本を越えるものづくりが出来ると考えていた. - 企業文化的背景
ソニーという会社は,井深,盛田という二つの違う個性によって出来上がった会社である.そこで育った原田氏は「独自性」を強く持っていた.
その原田氏は,ソニー勤務時代は常に辺境を歩いてきた.ソニー台湾,天虎電子,ソニー恵州,SOLIDと駄目な会社の再建に投じられていた.このため原田氏は好き勝手をやっても結果さえ出せば,何も文句を言われないという,彼にとっては理想的な環境を手に入れた.
このような背景で,原田氏は自分の理想を求める工場経営をすることが出来た.
ポテンシャルを持った者を抜擢し,育成する.その反対に,既得権を持ちそれに安住している者,付和雷同の志無き者たちを排除していった.
そのため原田氏をよく思わない者,恨みを持つ者もいたと思う. - 原田氏の普遍的価値
人の能力を引き出すプロセスで,自分自身が喜んで成長の達成感を持って取り組む仕組みと仕掛けを作り上げたことだと考える.これは学歴,民族には関係なく人を成長させることが出来る.
しかし2000年当時の中国では,機械に投資するよりは作業員を雇う.安いコストで労働力を買い叩くことが出来た.このような考えが主流であり,原田式経営は時代に対して早すぎた.
しかし従業員の能力を引き出し人を使う.このような考えにパラダイムシフトするのは今がターニングポイントだと考える.中国の経営者,中国に進出する経営者にとって,他のどこでもない中国ですでに実践された原田式経営を学ぶメリットは大きい.今こそ原田式経営の出番である.
- 時代的背景
■はお教授
はお燕書氏:明治大学経営学部教授.2001年原田氏がSOLID社の社長として,企業再生に取り組んでからずっと,原田式経営を定点観測・研究してこられた.原田式経営に関する論文を多数執筆
- 経営学の角度から原田式経営の強みはどこですか?
普通の経営者は,利益を上げることを第一目的としている.
原田さんの経営は人を育てて幸せにすることを目的としている.人を育てて幸せにすれば,企業は成長する.その結果利益が出る.
人を育てることにより感恩文化,感動文化が出来て経営者と従業員の信頼関係が出来る.
21世紀の企業経営者は広い心を持って従業員を育てて幸せにすることが必要だ.
利益ばかり追求している経営者は,従業員のことを忘れるので儲からなくなる.
人を幸せにする企業は,人の潜在能力を引き出し効率も品質も高くなるはずだ.
■西塚氏
西塚正基氏:蛍日国際貿易(上海)有限公司勤務.2008年4月24日にSOLID社を訪問,原田氏と出会い大きな啓発を得る.その後深センオフィスを独力で立ち上げ,ローカルメンバーを育成.ローカルメンバーだけで運営可能とした.
- 原田氏の教えで最も印象の深いものは?
- まず定義を明確にする
解釈の違いにより,従業員各自の仕事の成果が違ってしまうことがある.それを統一するために,定義をまず明確にする.マニュアルや教育資料はそのためのツールと考えている. - y=ax理論
y:成果 a:相手の感情 x:自分の感情
相手の感情がポジティブなときには,自分もポジティブに対応する.しかし相手の感情がネガティブなときには,自分がポジティブな対応をしてしまうと,成果は「負の値」になる.
相手の感情がネガティブなときには,自分もネガティブな対応(同情や慰め)により成果を「正の値」とすることができる.
- まず定義を明確にする
■鄭社長
鄭東海氏:鄭泰集団有限公司総経理.MBAで経営を学んだが,思い通りに会社経営が出来なかった.そんな折にSOLID社の原田氏を知り,部下と一緒にSOLID社を訪問.その後単身SOLID社の作業員寮に1週間寝泊りし,原田式経営を体得.現在原田氏の元部下7名と一緒に,グループ会社・浙江鄭泰汽輪股分有限公司の経営改革に取り組んでいる.原田氏の命日12月12日に,自社内で「原田則夫追悼研討会」を開催
- 原田さんの教えで最も印象の深いものは?
一週間SOLIDで勉強し,最後に原田さんに何を学んだか聞かれた.
理念,教育,制度などなど大いに勉強になったと答えたが,原田さんはまだ君は本当の所が分かっていないといわれた.
すべては人から始まっているという原田さんの言葉に深く感銘した.
原田さんと出会う前は,会社の制度,業績評価制度,給与制度,管理制度など制度をきちんとすることに,腐心していた.この時人材の育成と活用が足りていない点だと気が付いた.
この教えが今の鄭泰の改革に役に立っている.
改革を阻んでいる副社長クラスの経営幹部をそのままにしておくのは正しくないと考え,解雇した.これは改革に伴う痛みだった. - SOLIDでの1週間は従業員寮に寝泊りしたのか?
実際に作業員たちと同じ部屋で生活を共にした.自分は経営者であり,作業者の経験が無い.彼らがどう生活しているのか知る大変良い機会だった.作業員と一緒に朝早く起き,毎日日記を書くという生活を通して,原田経営哲学を細かいとこまで理解することができた.人から聞いて理解するのではなく,体験により理解することができた.
原田さんの理念が作業員一人ひとりにまで行き渡っているのを肌で感じた.これは並大抵のことではない.運転手まで行き渡っている.これはわれわれも継続努力しなければならない点だ.
このような企業文化を作り上げ,従業員が自主的に動くようにしているところが原田さんが成功している点だと思っている.このようなやり方が,自分がやりたい方式だと理解している.この道を進めば必ず発展できると信じている. - 欧米の経営は制度を重視しているが,東洋の経営は人心管理を重視しているといえるか?
そうとも言えるが,完全ではない.西洋も人を重視している.しかし人心の角度から理解していない.制度を運用するモノとして人を考えているだけだ.制度を確立したら人を変えることはあるが,制度は変えられないという考えが間違っていないと思う.
西洋でも人は重視するが,その人たちは一定の素質を持った人たちだ.中国の民営企業ではそのような人を集めることは不可能だ.だから中国方式の管理が必要だ.原田方式がこれだと思う.
例えば日本などは,人の素質が高いのでこのような方式は必要ないだろう.
■郭永福氏
郭永福氏:元SOLID社勤務.現在浙江鄭泰汽輪股分有限公司副総経理として,経営改革に参画.
- 原田さんの教えで一番印象に残っていること.
原田式経営マネジメント14か条の「自立心と参画意識と問題意識を育てろ」だと思っている.人を育てれば感謝・感恩の関係が出来る. - 原田さんに言われて影響を受けた言葉
たくさんあるが,一番印象に残っているのは,昼食の後一緒に事務所に戻ってくる時に,管理とは言うは易いが,継続することが難しい,といわれたことだ.
管理と言ったり聞いたりすることは簡単だが,それを継続し続けることで初めて成功する. - 原田社長から99%大丈夫でも1%を心配する,と聞いたことがある.
どんなことでも計画を持って継続的にフォローすることが必要だ.
原田さんは,きっちりフォローをする人だった.3日くらいならば,改善して無くても許してくれたが,1週間改善してないとすぐに指導となった. - 原田さんはフォローに真剣に取り組む人だった
指導した効果をきっちり確認していた. - 原田さんに言われて頭に来た言葉はあるか?
有るが後になってみると,原田さんの言っていることが正しいと理解できることばかりだった. - 原田さんはいいつも通訳を通さずに指導をしていたのか?
たいていは通訳はいた.それよりも1対1で指導することは避けていた.それはソニー恵州時代に部長さんを指導したが,何も起こらなかった.部長さんの部下に聞いても誰も知らなかった.部長さんは指導されたことを忘れていたのだ.それ以来必ず指導する時,叱る時は複数の人の前でやっていた.
自分も財務部長の時に,叱られる時に他の部長さんも一緒に呼ばれて叱られた.原田さんは横で聞いていた部長の部下に,話が伝わっていることを確認していた.
こういうフォローはきっちりしていた.
改革当初,倉庫の先入れ先出し管理を確認するために,ダンボールにそっと印をつけて確認をしたことがあった.
原田さんは三現主義を徹底していた.会議中でもすぐに現場で確認.日々現場をパトロールしており,三現主義の執行力は大変高かった.だから従業員は嘘をいえなかった.
それは部下を信じていないからではなく,PDCAをきちんと回すためだった.
■羅国兵氏
羅国兵氏:元SOLID社勤務.浙江鄭泰汽輪股分有限公司の企業改革の先鋒として参画.2009年8月より同社人事部長.
- 原田さんの教えで一番印象に残っていること.
他人の立場で考えること.一生SOLIDに勤めるわけには行かない.よその会社に行ったら,経営者の立場,従業員の立場,ベンダーの立場,顧客の立場で考えなければならない.それは他人に対して関心を持つということだ. - 原田さんに言われて影響を受けた言葉
情熱を持って取り組むこと.人の助けをもらえない時や,人から認めてもらえない時も情熱を持って仕事に取り組まなければならない.人の助けがもらえない時や,人から認めてもらえない時は,自分自身を改善しなければならない. - 原田さんに言われて頭に来た言葉はあるか?
原田さんに何かいわれていやだと思ったことは無い.自分は大学を出ていないが勉強することは好きだ.だから原田さんに叱られるのも自分の成長の機会だと思っていた.
原田さんがSOLIDに来て改革が始まったとき,自分は成型工場の係長だった.それから3ヶ月で財務の仕事に異動した.当事はストレスが大きくて辞めたいと思った.自分は財務のことはもとより,パワーポイントすら使えなかった.林さん,陸さん,皆が教えてくれた.財務に異動になって1年間は毎日夜の3時まで仕事をしていた.
2009年10月に初めてSOLID社を訪問,原田氏と知り合う.部下20数名と一緒にSOLID社を見学.独自の経営理念に原田式経営哲学の良いところを取り入れ,企業文化をコアコンピタンスとした経営,従業員満足を超える従業員感動を目指した経営を実践.
- 企業文化を企業のコアコンピタンスとする
三流企業は生産を強化する.
二流企業は営業を強化する.
一流企業は文化を強化する.
一流の企業文化を作れば,一流の企業になれる.
その企業文化は,微笑文化,人財文化,敬業文化(仕事熱心),向上文化,感恩文化の五つからなる. - SOLID社の見学について
比較にならないほど優れた工場を従業員に見せても,あまり意味が無い.一つ二つでも自分たちの方が優れているところがあれば,努力すればその工場を超えられるかもしれないという意欲がわく.
百楽仕では6年間笑顔で挨拶を継続しており,こちらではSOLIDに勝てると思い,二十数名の部下を連れて,SOLIDを見学に行った.
原田氏をはじめ8人の中国人幹部が一日かけて対応してくれた. - 企業文化を作るための工夫
- よいと思ったことはすぐに取り入れること
SOLIDを訪問してすぐに,社内報を作る編集Grが出来上がった.すでに5号まで刊行している.各号従業員の家族にも郵送している. - 常に取り入れることが無いか,セミナー,新聞あらゆる情報をチェックして考え続ける.
大嶋啓介氏(朝礼で有名な「てっぺん」の社長)のセミナーを聞いた後,自社では「元気が出る朝礼大会」を開催することにした.全社を20ブロックに分け,各ブロックの朝礼を審査し,元気が出る朝礼に対し賞金を出すことにしている. - 継続すること
笑顔で挨拶運動は6年間継続している.毎朝各職場で,笑顔で挨拶練習をしている.
これがうまく行くために,従業員の名前を覚える,職場に出向き声をかけるなどの努力をしている.特に慶弔などに合わせ声をかけてやる.これは慶弔支払いをチェックしていれば,社長として簡単に分かることだ.従業員一人ひとりに関心を持つことが重要. - 三年先の夢,二年先の希望,一年先の実行
夢とは目的であり,永遠に叶わぬモノ.夢を希望と置き換え,これが目標となる.希望は叶うことがあっても,夢は更に進化する.目標をかなえるために計画を立て実行する.
このプロセスをまわすために,あらかじめ施策や指導内容・方法を用意しておく.適切なタイミングでそれをドラえもんのポケットのように,次々と出してゆく. - 感動経営
従業員満足ではなく,従業員感動を目指している.
満足度の閾値は各個人違っている.しかも上がる事はあっても下がる事は無い.しかし感動は,集団,組織の中で伝染する.また感動の閾値は下がることがある.なぜなら人は皆感動したいからだ.
百楽仕では,6年前から誕生日プレゼント(30元/人)は一人ひとり本人のために違うものを選んでいる.従業員が500名を超えたいまでもそうしている.30元の電話プリペイドカードとは違い,一人ひとりのために選んだプレゼントには,感動要素が入るからだ.
- よいと思ったことはすぐに取り入れること
- 従業員以外にも企業文化作りに協力してもらっている
- 運転手
本社役員を空港まで迎えに行くドライバーに,お客様に冷たいお絞りを出すと喜ぶかもしれないと教えた.ドライバーは車載冷蔵庫を買い,冷たいお絞りと水を用意し,本社社長に出してみた.
本社社長は,7年間富田氏に一度も土産を買って来たことは無いが,次から運転手に土産を持ってくるようになった.
この話を聞いたドライバーはすぐに全員真似をするようになった. - 警備員
11月に訪問客に対し,応対した警備員の評価を「満足,一般,差」の評価を1ヶ月間やった.600人以上の訪問客の内一般が1人,他は皆満足だった.
12月からは「非常満足,満足,一般」に評価基準を上げてアンケートをしてもらっている.
更に1月から従業員全員による,警備員の5段階評価を行う.これにより派遣元の考課が決まるようにしてある.
派遣元警備会社の社長とは,定例でミーティングをし警備員の資質アップ,その方法について話し合っている. - 食堂
食堂運営業者を切り替える時に,
・選択の自由度拡大
・清潔.衛生
・食の健康
をキーワードにして業者を選定した.
朝食に提供するメニューが,すぐに品切れになってしまう問題が発生した時に,総務部が実態調査に協力.従業員のマナー教育にも役立てた.
- 運転手